● ナヌマンガ島2008年の日記 6月23日

     ー 子豚の運命 ー  


豚の世話をしに行った。

森を越えた、
オシエじいちゃんの家
(★1)
ブタ小屋だ。

じいちゃん亡きあと、
チヒリ
(★2)がその世話を継いで
毎朝毎夕、バイクで通う。

そこに時々、
わたしと夢さんも
自転車でくっついて行くのだ。


1ヶ月前に生まれた子豚が
7匹みんな、元気に育っている。

母豚のおっぱいしか
飲まなかったのが、
ココナツを削ってやれば
食べるようになった。



★1 オシエじいちゃん =
      ツバル特選写真集
      「オシエじいちゃんのカヌー」
      「オシエじいちゃんの家」
      「草ぶき屋根のふきかえ1」

★2 チヒリ =
      「5月17日酔っ払いチヒリ」


1ヶ月前、生まれたては
こんなだった。



 黒豚を「自分の豚」と決めて、よく抱く夢さんだったがー。


南の島の豚は
ほんとうにウマい。
臭みはまったくない。
ふくいくとした、濃い香り。
かむほどに 口に広がる
あらゆる旨み。
大地のエネルギー。

生まれてすぐ、
おい重なって争って
母の乳を飲む。

泥の中をプヒブヒと
必死で逃げ回る。

チヒリとわたしは
その泥と臭い糞を
水とほうきで掃除する。

泥。糞。ココナツ。
熱い太陽。森。
その中でビチビチ
駆け回る豚たち。

そういう命を、
食べるのだ。

祭に出される豚
★ サモアの豚も同じです。 サモア「南の島子連れ滞在記」 交通事故の豚は石焼に!をご覧ください。



ところが。
こののち、8月に。

育ってきたこの子豚たちを
犬が襲って食べた。

しつけの悪い飼い犬が
豚を襲うことは時々ある。

そういう時は、その犬を殺す。
生かしておくと
ほかの豚も襲うからだ。

犯人である
隣家のポピーと
このマロソーばあちゃん家のミミは
棍棒で殴られて死んだ。

そしてこの2匹の犬を、
人間は食べたのだ。

あわれ黒い子豚は
夢さんに食べられることなく
犬に食べらた。
そしてその犬を
人間が食べたのだった。



ここではこんな
命の連鎖がなまなましい。

子ども達は、その
一部始終を見る、手伝う。

子豚が生まれるところ。
豚を殺す瞬間。
子犬たちが生まれる時。
その犬が豚を食べること。
犬を殺すところ。

そして、豚の丸焼きを
切り刻んで、「むしゃら!」とかぶる。



日本の街では
いのちの生まれるのも消えるのも、
日々の暮らしから遠いところでなされる。

そして食べる豚肉は小さく小分けされて、
きれいにパックされている。




日本から来た知人は
ひとり残らずびっくりする。
この南の島の人たちの
エネルギーの濃さに。

「どうしてみんな
こんなに声がデカいの。」

「どうしてみんな
こんなに毎日
腹の底から
ゲラゲラと笑うの。」

「どうしてどの人の瞳も
キラキラと大きく
見開いているの。」

どうしてか分からないまま
わたしはずっと
この南の島の
ほとばしるエネルギーが
恋しくて 通い続ける。

チヒリといっしょに
豚の糞をジャッジャッと
掃いて
泥を全身に浴びながら
わたしはそのことを
また、思い出していた。


子豚たちに残飯をやる12歳のタラファイ(パイツプ島)





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