● ナヌマンガ島2008年の日記 6月25日

     ー セメント大好き ー  


 
 首都からの船が来た。 
(★1)
フィジー製のセメントを大量に運んできた。
40kgものを、1500袋。

今年、このナヌマンガ島では、「全世帯トイレ改築プロジェクト」が行われる。
パンダナスの葉で壁を作ったトイレや、布で目隠しをした簡単な屋外トイレを
すべてセメント作りのトイレに建て替えようというのだ。

わたしは聞いた。
「パンダナスの葉や、布で充分でしょ。なんでわざわざ大金かけてセメントのトイレ作るの?」

「2010年の大会の準備だよ。国の賓客がこの島に来るのに
こんなみっともないトイレでお迎えはできないからね。」
2010年に、ツバルキリスト国教会大会がナヌマンガ島で開かれる。
その準備だ。


★1 首都から来る船について =
  月に1回か2回、人と貨物を乗せて船が来ます。それが島と外界との唯一の物理的なつながりです。
  → 「ツバル国内の島々案内」   船の中の様子 → 子ども1「腕の中の見知らぬ子どもたち」


 このトタン屋根材は500枚、この島に積み降ろされた。


こんなに美しい白いサンゴ石の小さな島に 
海外の大国の援助を受けて大量に購入され、運び込まれるセメント。 トタン屋根、鉄骨、あらゆる建材。

賓客が集まる場所では
パンダナスの葉っぱの壁は「みっともなく」見えて、
セメント壁が「りっぱ」に映る。

その感性もアメリカ・日本・オーストラリア…世界の先進国から取り入れたものだ。



重い鉄骨。





建築用ワイヤー。



お隣のターペーもはりきる。
★2





本日の納品書。



祭りの席でスピーチを求められることがある。
そんなときは、たどたどしい自分のツバル語にあぶら汗をかいてトチりまくる。

でも、みんながこっちを注目しているこの瞬間に、ここぞとばかりに言いたくなることは
決まっている。
このナヌマンガ島の孤高の美しさだ。

椰子やパンダナス、ブレッドフルーツ、真っ白いサンゴの砂利の海辺…
そんな、この島の持つ自然の芸術とその工芸や伝統料理。

地球上、ここだけが持つその美しさを、どうか誇りにしてほしい、と叫ぶ。
消えないでほしい。明日もあってほしい。
毎日見ていても涙があふれてしまう、この信じられないような神秘の小さな島。

知っている単語をとにかく並べて、
絞るように訴えるその情熱だけは 聴衆をシィーンと圧倒するようだ。

 ―うん、うん、と深くうなずき、そのスピーチに拍手喝采してくれる女たちと男たち。


 その男たちが、この日の港では
わたしが重い気持ちでながめているとは知りもせず
カメラに向かってニカッと笑い、じょうだんを飛ばす。

みんな意気揚々と働いている。
今日働いた人にはツバル生協から労賃が支払われる。
船の着く日は、港に来て積荷を運びさえすれば、平等に現金収入を得られる日なのだ。

―「新しいものが島にはいってくるってのは、暮らしがよくなることだ!」―
男たちと会話すると、ほとんどがそう言って喜んでいる。

輸入製品の積荷運びで現金収入が得られることは、まさにその象徴だ。

わたしは―。
それに意見など、さしはさめるはずもない。
彼らの島で、彼らの暮らしだ。
アメリカや日本に、すこしでも近い暮らしをと願うことを
どうして批判できようか。

キリキリと痛む胸の内にかみしめた。
 ―あぁ、まず、ここにもっと住みたい、と。
そして電気やセメントを使うことを必要最低限にして、
パンダナス葉の屋根作りやココナツ拾い、あらゆる生きる技、うんと上達したい、と。
ここに住んで、自分の暮らしで語ることでしか、
ひとにものは言えない。

たとえ若者たちに笑われても
悠然(ゆうぜん)と森の暮らしを営む
そんなナヌマンガのばあさんになりたい。

そして。
今、この瞬間、自分にできることは―と思い返した。

記録道具を持つ今は、この島のすべての変化を記録してやろう。
フッとそう決めたあとは、ただ黙々とシャッターを切り、ビデオカメラをまわしていた。






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6月27日 美しいおんな 
(執筆中)…のつもりが、「2008年の日記」はここで
中断となりました。
読んでくださり、こころから感謝します。
ファカフェタイ・ラシラシ(ありがとうございます)…!