● ナヌマンガ島2008年の日記 6月12日

     ー ココナツ削り・ハイ ー  


フォラと一緒に、20個ほどのココナツを削った。

親戚の赤ん坊の誕生祝いに
プラカ芋の料理をとどけるためだ。 

フォラのお尻の横に転がっているのが、ココナツ削り器だ。




● ココナツ削り ●

ココナツ削り器(ツバル語「トゥワイー」)の
土台をお尻の下に敷いてすわり…
削り器の歯でガリガリとやる。


ココナツミルク。
日本でいう醤油のように、ツバルの日常料理に欠かせない素材です。
ココナツミルクは、ココナツを削ることから生まれます。

成長しきった茶色いココナツの硬くて白い実を、ガアリ、ガアリと削るのです。
そうやってできたココナツの削り節を、ネットに入れて手で絞ると、ジュワ〜ッとココナツミルクが絞れる。

このココナツミルクは、日本で買う缶のココナツミルクと同じものだけど、全然違う。
まず、香り。ふつふつと生きたココナツの香りが広がります。
この香りに全身ぴくぴく、目が覚めます。

そして、新鮮なので分離しない。どこまでもとろ〜りと柔らかな瑞々しい液体。
命が踊っています。

これを生魚とからめて「ココナツ刺身」にする。極ウマ。
蒸してつぶしたプラカ芋にたらしてマッシュ・プラカ。 (ナヌマンガ語「ファカララ」バイツプ語「トロ」)

かぞえきれないツバルの日常料理に使います。
そのままブレッドフルーツ
(★1)やプラカ芋・タロ芋をディップしても最高。

削ったココナツ削り節は、絞らずそのままでも食べます。
毎朝、マロソーばあちゃんが焼くカレヴェ・クレープ
(★2)や、パンにのせて食べました。
口の中で、削り節から生きたココナツミルクがじゅわぁっと甘く溶けます。
口にほうりこむたびに、生きる喜びに震撼します。


★ ココナツ削りと絞り風景 サモア版 → ナツの南の島子連れ滞在記「体験!サモア文化 ウム料理」

★1 ブレッドフルーツ → 下段最後の写真

★2 カレヴェ・クレープ カレヴェとはココナツの樹から朝夕とる樹液です。 → 「酔っ払いチヒリ」
              それをふくらし粉と甘みとして小麦粉にまぜて、フライパンで焼きます。


● 削ったココナツは毎日いろいろに使います ●

ココナツミルクを絞る 
 
熱してつぶしたブレッドフルーツに
ココナツミルクをまぜ、石焼する。
(「ソロ・メイ」)
 
ココナツミルクで魚を煮る。
(「スワ・イカ・ロロ」)
   
生のまぐろをココナツミルクであえて
食べる。
(「メアオタ・ファイキ・ロロ」)

カニにココナツ削り節をつめて食べる。
これも最高。     (夢菜4歳)
ブレッドフルーツ・フライと干し魚に
ココナツ削り節をつけて食べる。
直火焼きした魚を
ココナツ削り節にあえる。
(「イカ・フルニウ」)   (夢菜8歳)
すりおろして焼いたタロ芋に
熱したココナツミルクをまぜる。
(「スアスア」)

ブレッドフルーツとはこんな木の実。
ほくほくと柔らかくて甘い。
これをココナツミルクにディップして
食べる。         (夢菜8歳)
           


ココナツ削りは力がいる。
2002年にサモアに滞在したとき、初めてやったが、ろくにできなかった。
2004年に最初にツバルに滞在したとき、すっかり忘れていた。
1ヶ月後、少しリズムがつかめたが、それでも、ココナツ2個ぶんも削ると、もうヘトヘトになった。

けれどもこの「があり、があり」という手の感触が快感だ。
ココナツのふつふつと踊る匂いが快感だ。

毎日のようにやっていると、そのうちからだの使い方も分かってきた。


今日は休み休み、
どんどん削った。

ランニング・ハイではないが。

どんどん削っていると
からだは疲れてくるが
だんだん頭の中が
からっぽになっていく。

ドーパミンがさかんに
分泌される。

サモアでカカオの実を
トントントンとつく作業でも
同じ快感があった。

(→ ナツの南の島子連れ滞在記
   「海辺でサモアン・ココアつき」)



からだを使った単純な作業で、生きた香りをはなつこと。
そこには、深いヒーリング効果がある、と、痛切に思う。

「ココナツ削りセラピー」コースが 開設できそうだ。
ナヌマンガ島にきて、毎日、この島のホームステイ家族のために、ココナツを削るプログラム。
ああ、快感。 これほど全身と心が癒される行為があろうか。

ただしこのセラピーコース、合宿場所にたどりつくのに、日本から1ヶ月の旅。 ー無理だな、こりゃ…。


そのうち、毎朝
みんなが朝ごはんの
カレヴェ・クレープに
つけるココナツを削るのが
わたしの
朝の日課になった。

ところが
だるい日は
「今日はいいや。」

そんな日は
島1件の生協で
買ってきた
輸入のオレンジジャムを
クレープにつける。


思えば日本でも、子どものときによく手伝いさせられた「ごますり」。
子どもながらに、恍惚感にひたった。
いまは練りゴマを買ってくる。

ああ、こうして、日常のなかのヒーリング行為は、気づかないうちに失われていくのか…。
日本でも、ときにはやろうか。ごますり。




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