● ナヌマンガ島の日の出 バイツプ島の夕暮れ ナヌマンガ島 5 |
― 木を植える大地 ―
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アセナティの五番目の娘バイエリとモエミティ(夢さん)は、よくブレッドフルーツの木に登って遊んでいた。 (2010年12月4日)
家の前の砂利に座って、ござを編むためのキエの葉の棘(とげ)とりをしながら、アセナティはわたしに説明する。 パパイア、バナナ、ブレッドフルーツ。この家は豊かな実をつける木々に囲まれている。朝起きて、そこにあるパパイアの木から熟れた実をもいで朝ごはんに食べる。それから目の前のブレッドフルーツの木に登って実をとって昼ごはんのために素焼きする。そんな暮らしが、わたしの身体と心にくれるこの安心感と喜び―。それは、いままで体験したことのないものだった。
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ブレッドフルーツの木の高くに登って実をとっている人が、見つけられますか? (2005年4月25日) |
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日本にいたとき。田舎で育った友人たちと話すと、彼らと自分の精神構造の違いをはっきりと感じずにはいられなかった。彼らは今は街中に住んでいても、いつもどこか、根が明るいのだ。そして心の基盤が、安定している。「どうしてこんなにお先真っ暗の世界に生きているのに、そんなに安定していられるんだろう」と、よく不思議に思ったものだ。 けれども、わたしもいまや、アセナティ家とはすっかり家族の関係だ。この島にわたし個人の土地はないけれども、ここに来れば、ブレッドフルーツを好きなだけ食べられる。パパイヤやバナナだって気のおもむくままに植えた。植えたときは、そりゃあ気持ちよかった。田舎を持つ人にとってはあたりまえの行為が、わたしにとっては、人生初めての、なんとも爽快で満ち足りた、深い感動だった。 この南の島で、からだで体験して分かったひとつの答え―。ただ、土とつながること。 食欲・睡眠欲といった、生きるために必要なものを直接得るための一次的な本能もあれば、生きるための「条件」を満たそうとする二次的な本能もある。人間は本来、群れをなさなくては生きられない動物なので、「家族」や「会社」または「商業組合」「コミュニティ」「村」といった何らかの集団に属すると安心感を得るという「集団帰属欲求」もそのひとつとして知られる。それにもともと狩りをする動物だったから、身体を思いきり動かして運動するとドーパミンなどの脳内物質が分泌されて爽快感を得る「運動欲求」もそのひとつ。 そんな、生きるための条件が満たされると精神が安定する、という二次的本能のひとつに、この「土とのつながりを持つこと」もあるのじゃないか。 一時的本能の欲求は身体的なのですぐに分かる。「おなかがすいた」とか「眠い」とか。ところがこの二次的本能の欲求は、けっこう、分かりにくいことが多い。「わたしはなぜこんなに暗いんだろう?重たいんだろう?」と、考え込んだりする。それがわたしの日本の街での人生だった。 文明発展に適応して、大地とのつながりがなくとも充実を感じれる人間も大勢いる。街中でも、自己表現や仕事の達成感で充足して生きる人びとが。けれどもわたしの本能は、浅い人類の歴史にそこまで適応してはいなかった。「集団帰属欲求」「運動欲求」…そして、これは「大地欲求」とでも命名しようか。これが満たされず、根なし草のような生命の不安を抱えていたのだ。 わたしの場合は暑い気候と青い海とココナツが大好きなので、どのみちやっぱり南の島なのだけれど。心身症に悩んで、打開策を模索する大勢の都会の仲間には、提案してみたい。「たとえば畑を借りて、ともかく毎日、土に触ってみて」「田舎に住んで、好きな実のなる木を植えてみて」と。すべての人に万能ではないけれど、それでも、ひとつの、大きな解決の試みとして。まずは自分が動物であることをよく知って、その欲求を必要最低限、満たしてあげる試みだ。 毎日、家の前の砂利に座って、ふたりでござを編むためのキエの葉の棘(とげ)とりをしながら、アセナティは何度もわたしに、こう語った。 執筆 2012年5月22日 |
● ブレッドフルーツ ● |
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ポリネシアの国々で、毎日の食事に欠かせないのがブレッドフルーツ。 ツバル標準語では「メイ」、ナヌマンガ島語では「フアタンガ」。 サモア語・ハワイ語では「ウル」、その呼び名は地域によって色々です。 素焼き、揚げる、ゆでる、マッシュ、つぶしてスープ、…いろんな料理法があります。 |
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これがブレッドフルーツの実。 下の3つは皮をむいた状態。 (夢菜4歳) |
椰子の殻の灰の上で転がすブレッドフルーツの素焼き。ホクホクで香りもこおばしい。 |
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ブレッドフルーツをふかして杵でつく。 「ソロ・メイ」という伝統料理の工程。 |
これはブレッドフルーツを薄く切って油で揚げる ブレッドフルーツ・フライ。(「メイ・ファライ」) カリッとうまくて子どもたちの取り合いになる。 |
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手前右にあるのがふかしたブレッド・フルーツ。 どんなおかずにもよく合う。 |
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他参照: ナヌマンガ島2008年の日記 ―ココナツ削り・ハイ― コラム サモアホームページ「南の島 子連れ滞在記」 うま〜い石焼、「ウム」料理 下段の「ウル」 |
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