● 2004年
ああ出発前序章 
ーなぜ、行くのか。ー


−この文章は、ツバルに初めて出発する前夜の2004年10月31日に記した決意です。 −


 ツバル。人口1万人の、独立国。

(さて、ここで「1万人」を想像してみましょう。日本で「〜町」と称されるところで人口1万人前後が多い。「〜区」というところではおおざっぱにいって10万人〜数十万人の人口。)

 ローマ法王のいるバチカン市国をのぞけば、世界でいちばん、人の少ない国だ。

 ツバル。

 南太平洋の大海のど真ん中にある、小さい小さい、9つの、サンゴでできた島。フィジー、トンガ、サモア、キリバス、ナウル、ソロモン諸島、バヌアツ…それらはみんな、ツバルから見ると南太平洋の「大国」諸島。大国にとり囲まれた、小さな、小さな、9つの島の国。

 

 ナツは、以前は、サモア(南の島子連れ滞在記参照)の次に行く太平洋の島国へは、移住のあてを探しに行こうと思っていた。「太平洋の真ん中の島、海の見える家に住む」が、絶対かなえたい夢だからだ。

―移住のめどを見つける旅―。半年間は現地にいられるだけの予算を、せっせと働いて貯めた。ところが。

どうしても、ツバルに行ってみたくなった。長いあいだ、そこにいてみたくなった。

ところで、ツバルへの移住の見込みはというと、ほとんど、不可能だ。

国が小さすぎて、ツバル人でさえ、現金収入は国外出稼ぎに頼っている。

 そして、数十年後には沈むのでは、と危惧されている国のひとつだ。1980年代からは、その兆候である水害がだんだん目立ってきている。

 それなのに、なぜ? なぜ、 自己資金を投じて、行って、半年もそこへ居たいと思うのか?


 美しい海なら、タイやフィリピン、パラオ、ヤップ…いくらでももっと近くの、行くのにお金のかからないところで楽しめる。

 沈むかもしれない。

 ツバルの人たちは、その日食べる分だけの魚をとり、限りなく自然と溶けあった、自給自足の暮らしをしている、という。

 沈むのは、日本やアメリカ、オーストラリア…ツバルとはかけ離れた物質の溢れた国々が排出する二酸化炭素その他が原因の、地球温暖化によってだ。

 つまりは、このわたしの、暮らしによって。沈むかもしれない。

 いつもナツは、「死ぬときには後悔を残したくない。」と、念じている。

 「今だ。今。今、心の底から、したいことを、力の限りに尽くして、最高の瞬間を得たい。今、この時に、絶頂でいたい。いつでも、死ねる状態でいたい。」

 移住のことは、半年後に生きていたら、またその時考えたらいい。


  行きたい。
ツバルで、ツバルの人と一緒に、半年、生きてみたい。

 貯めてきたお金を消費するだけで、何の収入にもならない、これからの半年間。

 半年後にどうやって生きるか、さぁ、わからない。今までも仕事を見つけて生きてきたのだから、何とかなるだろう。

 なぜ、ツバルなのか。さぁ、なぜだろうー。魂がそうしたいから、としか、今はわかりません。

 そして、大切な娘―4歳の夢さん。

 ついて来るといってくれてありがとう。(というのも、2ヶ月前から一生懸命勧誘していたのだ。)
勝手だけれど、わたしが生きたいと心から望む生き方を、どうか見てください。

 4歳のあなたにとって、熱帯での生活が安全だなんて、誰にも保障できない。

 けれども、わたしには、こんな生き方しかできないのです。誰に非難されても、わたしはわたしの魂を揺さぶることを、力の限り、しているときにこそ、自分も、あなたも、心の底から愛せるのです。


2004年10月31日出発前夜  


   出発後、現地で、このツバルに対する思いを、修正をせざるを得ない深い発見をしていくことになりました。次ページ、「2008年版序章 ― 海に沈むより先に ―」に、それを書きました。どうかご覧ください。





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