● 2013年の暮らしから 写真集 4

 

  ー 母と娘 ー











ござを編むためのキエの葉とりに
みんなで森にでかけた。

このときは、首都で嫁にいった
長女のリノが
島に帰っていた。

リノは、すぐ下の妹のミリほど
母親のアセナティと
たくさん話をしない。

トゲばったキエの枝に高く登り
茶色くなった葉をズイッ、ギュギュッと
引っぱっては、
バサバサと下に落としてゆく。










アセナティは地上。
棒で高くねらって
いい頃合いの
キエの葉を
どんどん落としてゆく。


 わたしが日本に帰っているあいだに、この母子にひともんちゃくあった。
アセナティは、隣村の、自分の義理の弟のために縁談を用意していた。
ところがたまたま、よその島から来たリノの夫の姉がその縁談をさしおいて、アセナティの弟の妻の座に落ちついた。
そのことで、リノの夫と、アセナティは、いっとき口論になったのだ。
酔っ払ったリノの夫は、近所じゅうに聞こえる大声でアセナティに悪口雑言をあびせた。
それ以来、アセナティは、リノの夫をゆるさない。

 そして今回、わたしがふたたびナヌマンガ島にいるあいだに、リノの夫は、船でリノを迎えに島に来た。
リノの夫とリノは、ふたりでアセナティに「あのときは酔っていた。どうかゆるしてくれ。」とあやまった。
しかしアセナティは怒っていた。
その船でリノと夫が首都に帰るとき、アセナティは港に見送りに行かなかった。
母親のかたをもつミリや他の妹たちも、見送りに行かなかった。
リノが家を出るとき、アセナティは言った。
「母親より夫をとるのなら、もう連絡しれくれなくていい。」
リノは泣いた。「そんなこと言わないで。」
けれどアセナティは背をむけた。

 リノは港で、船が出るまで、はらはらと泣いていた。
「電話、してよ。」とわたしは言った。
「でも母さんは、連絡するなって。」
「いいや、あんなこと言っても、きっと電話待ってるから。」
「うん…」リノはまた泣いた。




森蟹をとりに行ったとき。
アセナティの森蟹獲りはすばらしい。
バサッ、バサッと手を薮の中に突っこんでは、



むんずっと蟹をつかんでいく。




離れたところでリノも獲る。
まだ母親ほどあざやかではないけど―。
その手つきが、アセナティに似ていた。

編集 2015年12月2日




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