● ナヌマンガ島2008年の日記 5月11日

 

  ー 大漁 ー

まだ真っ暗の朝5時。
わたしは起こされた。
「トギアが曳き釣りから
帰ってきてね。
カマイ
(★1)が大漁だよ。
配ってしまう前に
写真にとるかい。」

出てみると
体長60〜80cmの
大きなツムブリが
20尾ほど。

フォラやルタ、
家中の女達も
たたき起こされた。
島の漁業組合に
売りに出す分を
これからさばくのだ。

トギアは重い魚を
陸におろして
また海に出た。


★1=ツバル語「kamai」
学名 elagitis bipinnulatus
英名 Rainbow Runner
和名 ツムブリ


マロソーばあちゃんの3人の息子たち、トギア、ファトゥイヴィ、チヒリは
自分で作った木製のひとり乗りカヌーをそれぞれ持っている。
(★2)
それに15馬力のエンジンをかませて、
週に3、4日ほどは、夜が明ける前に曳き釣りにでる。

今日の漁の女神はトギアにほほ笑んだ。

ツバルでは、さまざまな形で男達はひとり、または2人ほどで漁にでる。

漁の種類をあらわす言葉は数え切れない。
「タキ」(曳き釣り)
(★3)、「タキタキ」(小さい魚を狙った曳き釣り)、
「マータウ」(底釣り=ナヌマンガ島では「ファカトゥートゥー」)。
「フティフティ」(鶏の羽をルアーにして引いて躍らせる底釣り)、
「ターチリ」(網漁)、「サナ」(もぐってスピアでつく)、「シーシー」(竿釣り)、「ヴェロ」(もぐりつつ竿釣り)
「ハエハエ」(ランプの明かりで魚を集める)、「ラマ」(網ですくう飛び魚漁)。
「ラーマガ」、「ラフォラフォ」、…。

そして男が海から帰ってくると、みんなが聞く。
「ポアしたかい?」
「ポアする」というのは、ここでは、新興カルトやチベット密教の言葉ではない。
「魚が獲れた」という釣り用語なのだ。
(★4)

すると、マロソーばあちゃんの末息子、チヒリなんかは
恥ずかしそうに笑って、ナヌマンガ語で答える。
「ハーポア…!」(だめだったよ…!)

さて、夜が明けるころ。
わたしはご近所と親戚の家まわりをおおせつかった。
両手にツムブリを持って、「トギアがポアしたから。」と言っては置いてまわる。
みんな「あぁ、あんがとね。」と当たり前のように受け取る。

ウチだって、家の男どもが「ポア」しない日には
そうやって回ってきた魚を食べて
生きているのだ。


★2=「オシエじいちゃんのカヌー」、こんな風に作ります。

★3=ツバルの曳き釣り(「タキ」)は、竿を使わず、手で釣り糸を引いてカヌーやボードを走らせます。
   昔はエンジンを使わず手こきでスピードをつけました。

★4=「ポア」には他に「釣りの餌」という名詞の意味もあります。


● 大漁の魚は、近所じゅう、親戚じゅうにくばり歩く。 ●





● フィアフィアの曳き漁についていったとき ●

彼の場合はカヌーではなくボート。
尻がバンバン飛び跳ねる
船の中、わたしは一人で
たくさん吐きながら
ビデオを回した。
かかった! ボートを止め、
長い長い、重い糸をたぐる。
顔が現れるとすぐに、
こん棒でなぐって殺す。
そうしないと大あばれして
ボートがひっくりかえる。
吐き続けるたわたしを
岸におろして。
フィアフィアたちは全身
ぐっしょり濡れそぼりながら、
ふたたび大波の中に船出した。




● 曳き漁の魚いろいろ ●

カマスサワラ(ツバル語「パーラ」)。
お隣のジョンが「ポア」した。
(バイツプ島)


近所のモルがカツオとキハダマグロの大漁だった。
このときまだ4歳の夢さんが、大人たちがさばく横で
生の切り身をたくさんもらって食べていた。(奥)




家族のファトゥイヴィが曳き釣りで釣った
「パル・タエレペ」
(英名・和名未解明)

でかい魚の頭がコラーゲン質に富んでいて、とてもうまい。
巨大な魚の頭なんて、日本の街では食べれない。
カツオ、マグロ、カマスサワラ、ツムブリ。
わたしは大好きになり、よく大なべに海水でゆでた。
でかいので、胸ビレの付け根の「鯛の鯛」も、でかい。



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