● ナヌマンガ島2008年の日記 4月28日

 

  ー 千代の富士おんなの瞳 ー


左:アセナティ しごき終わったファラの葉をまとめている。 右:フォラ

この日。
わたしははじめてアセナティと一緒に仕事をした。

なぁんて筋肉むきむきのたくましそうなおばちゃんだ。
千代の富士…!
それが第一印象。

「いよお。来たね。」
アセナティは、わたしたち
(★1)を迎えてそう言うや、がぁらがらと笑った。

屋根を葺くためのパンダナス葉(「ファラ」)は、そのままではくるんと丸くそっている。
それを地面につきさした木の棒でしごいて、平らになめす仕事。
こりゃあ、どえらく筋力がいる作業だ。
ごわごわの硬くて厚い葉。こんな硬い葉は日本の植物ではお目にかかったことがない。
その葉の両端をびしーっと引っ張ってしごかないと、アイロンがかからない。
しかも葉はするどい棘(とげ)でいっぱいだ。

のりさん
(★1)の手元をじっと見て、アセナティは指導を加える。
「葉の根元のほうを短くもって。こうやって。」
「一度だけしっかりしごいたら、裏返してまた一度しごく。それで終わり。足でこうして押さえておく。」
「足の裏は、立てて押さえるんだよ。」
指導をするときは、自分の手をとめて、相手をしっかと見守る。
けれどもそのあと、必ずひやかして笑う。
「パスじゃないかぁ、ノリ。日本にファラの葉を持ってかえって、毎日しごくかい。がははははは。」

そんなところは、死んだアセナティの父親、オシエじいちゃん(
★2)にそっくりだ。

そして今度はわたしに向き直る。
「さ、どうだい、ナツは。うまくやれるかい。」
学ぼうとする者を見るこの眼が、なんともあたたかい。
たのもしそうに、まっすぐにこちらを見据える。
こんな頼りのない初心者でも、
しっかりとこの場に力として存在していることを、つたえてくれるのだ。

「このひとの眼は、なんてエネルギーを発してくるんだろう。」
思えばこの時のアセナティの力強い瞳に、わたしはすでに魅了されていた。


こののちの8ヶ月間、
日々アセナティのところに行っては、
島の仕事を学ぶことになる。


★1=ナヌマンガ島での最初の2ヶ月は、WOWOWドキュメンタリー「夢菜7歳の島」の撮影期間でもありました。
    撮影隊のノリさんとゲンさんも、ときどき一緒に島の仕事をしたのです。

★2=「オシエじいちゃんのカヌー」




さて。
日本人3人が
苦戦しながら
ファラの葉に
挑み続ける。

木陰から横目で
眺めていた
アセナティの娘ー。
9歳のフィメマだ。

遊ぶのをを止めて
わたしたちの作業に
見入りはじめた。

やがて。
「あたしもやってみよ。」
ニヤリと恥らいながら、
小さな手で
トゲトゲの葉の束を
つかんだ。

アセナティは言った。
「じゃ、そっちの
細くて小さい葉から
やんなさい。」


● 屋根作り用ファラの葉のしごき方 ●



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