● ナヌマンガ島2008年の日記 4月30日

 

  ー マロソーばあちゃん ー


その後2日間、わたしはアセナティやマロソーばあちゃんたちと
ファラの葉をしごいた。
朝から晩まで、しごいた。
筋肉痛の腕に鞭打って、があご、があごとしごいた。
そして倒れた。

3日目に
ファラの葉が山積みになった森の小屋にでかけたのは
アセナティとマロソーばあちゃん、ふたりだけだった。

筋肉痛のからだを抱えて
昼ごはんを届けにいったわたしは聞いた。
「この午前中、どんだけ進んだ?」

マロソーは答える。
「そこにあったアクラウ2束だね。」

「アクラウ」というのは、ファラの葉の大きな束のことをいう。
アクラウひとたばで約900枚のファラの葉。

午前中だけで、1800枚のファラの葉をしごいたことになる。




午後になって、
日がさしてきた。


マロソーばあちゃんは場所を移動する。

「ここがいい。大きなフェタウの樹だ。
太陽がこう西に行っても、
だいじょうぶ。」

ツバルの太陽は
あまりに刺すような光線が
からだに危険だ。
日本の真夏の太陽だとて
比べものにならない。
油断すると1時間やそこらで
日射病になる。

ツバル人は森で仕事をするときは
いつも後々の太陽の通り道を計算して
日陰をさがす。


ファラの葉をしごく棒をつきさすための
穴を掘る。


「ナツ。
写真なんか撮っとらんで
家に帰って寝ときな。」




「フィメマ。
こっち来なさい。
石を探してきて。

もっと大きい石だよ。
この棒を叩いて。
思いっきりだ。

棒がぐっと
地につきささって
動かんようにな。」


その後2日間は、アセナティとマロソーの
ふたりだけでファラの葉をしごいた。

そして屋根材は、次なる
「ラウ縫い」の段階に入る。

家に帰って晩ごはんの時。
マロソーはわたしに言った。
「あんたは、ナヌマンガの女になりたいって言ったね。
でも、まだまだだね。

フォラとルタだってまだまだだ。
あのこたちだって、2日で作業に出てこなくなった。
4日間やりとおしたのは
あたしとアセナティだけだったよ。」

わたしはその晩、全身をなでながら
悔し涙を流した。

強くなりたい、と思った。
アセナティやマロソーのように、
強くなりたい、と思った。

涙が、身体の下の、マロソーが編んだござに、
つたっていった。




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